2005年1月23日、八幡平スキー場は雪雲も去り、久々の青空が広がっていた。30〜40cmのパウダーに覆われたゲレンデで1〜2本滑り、誰もがこの上質のパウダースノーに一日身を委ねられる幸せを予感しつつ、ツアーコースに向かおうとしていた。

その時、事故は起きていた。“スキー場近くの斜面で人が埋まった。手伝ってくれーッ。”雪崩た現場には十数人が既に捜索を始めていた。時々、通過する斜面、南側の急斜面からとその奥の小さい沢の斜面から、デブリが出ていた。大雪崩ではないのだが、ゾンデのみで探すのは容易ではない。

続々とスキーヤー、ボーダーが駆けつけ、捜索に加わる。Sガイドが声を出し、30人体制でゾンデーレンが始まった。が、時間は刻々と経過していた。“いたぞーッ。”一斉に声の方向に走る。デブリの下に若い男性が一人、横たわっている。土気色の顔。一刻を争う状況、心肺蘇生が続く。雪崩現場には40人以上が集まっていた。

この若者を救うために各自できることを考える。搬送の準備をする者、深雪を踏んで道を作る者、事故に遭った若者は意識の無いまま運ばれていった。発見までに2時間近くが経ってしまったことで、その場にいた者は最悪の状況を予感し、何とも言いようのない無力感に苛まれていた。各自黙々と後片付けをしている時、Sガイドが再び声を出した。

“皆さん、ちょっとお話ししましょう。”この、ひと時(短い時間ではあったが)が、萎みかけた皆の気持ちを少しではあるが、前に向けさせてくれた。


“パウダー天国、八幡平”八幡平スキー場は、リフト3本を乗り継ぐと既に1,400mの稜線に立つことができ、そのままバックカントリーエリアに入ることが出来る。そして、茶臼岳方面、安比方面、何れに向かっても、そこに続く稜線から延びる尾根、谷を滑って降りるとスキー場に戻れてしまう。新雪を滑りたいスキーヤー、スノーボーダーにとっては、まさに”天国“なのである。

が、簡単にアクセスできるということが落とし穴にもなる。スキー場外は管理されていない”冬山“。以前は”山ヤ“の領域であった。それが近年のバックカントリーブームでスキー場に隣接しているエリアは、誰でも気軽に入れる所になってしまった。

トレースがついていれば、ゲレンデスキーヤーも入ってくる。”パウダー天国、八幡平“も入山者が増えてくれば、入山のルール作りが必要との声が出てきた矢先、事故が起こってしまった。


この事故を機に八幡平を滑る者、特に常連スキーヤー、ボーダーである“ローカル”、および、いくつかのガイドグループが徐々にではあるが行動を起こし始めた。事故の十日後、八幡平の麓の松尾村でスキー場のルールに関してなど、初の会合が行われた。その後は必ずしも足並みが揃っていたわけではないが、特にガイドグループ中心に外部のガイド団体のスキルアップ講習会を受講するなどの動きがあった。(山岳スキーガイディング講習会 (社)日本山岳ガイド協会、於:安比高原スキー場)

その後、2006年は目立った動きがなく終了した。翌年2007年1月、連続して茶臼岳ツアーコースの斜面で雪崩が起き、あわや重大事故という場面もあった。再び危機感が高まる中、ガイドの有志が発起人となり“八幡平エリア雪崩事故防止研究会準備会”を立ち上げ雪崩事故防止セミナーを開催した。

その準備に入って間もなく八甲田で雪崩事故が発生した。リフトやロープーウェーなどを駆使して楽しめるバックカントリー滑走だが、ここでもその落とし穴が悲劇を招いた。八幡平エリアに近い所では、網張スキー場、田沢湖スキー場、岩木山麓のスキー場、そして八甲田がバックカントリーにアクセス便利なロケーションにあり、雪崩事故のリスクを抱えている訳である。前述のスキー場エリアとも、将来的に事故防止に関して連携できればとの発想も生まれ、“北東北エリア”として発足の運びとなった。


当研究会が発足して次のシーズンを迎え、第二回目の雪崩セミナーを開催。山岳関係者の参加もあり、また別な盛り上がりとなった。シーズンの後半2008年3月8日、再び悲報が入った。裏岩手、源太ヶ岳の雪崩事故で2名の命が失われたのだ。

2002年1月にも同じ東斜面で事故が発生したのだが、源太ヶ岳は北西側に広大な緩斜面を持ち、東側が急斜面となっている。いわば、山全体が巨大な吹き溜まりとなっており、極めて雪崩の起こり易い山といえる。

特に強風の時は、厚い風成雪の層が短時間で出来、無樹林で視界も悪くなり、危険地帯に入って雪崩に巻き込まれてしまう。ほぼ同じ場所での事故発生は、より衝撃的な気持ちにさせられた。


当研究会で何が出来るか、何をやるべきか、改めて考えることとなった。当会は、スキーガイドが発起人となったわけだが、活動エリアの八幡平、裏岩手周辺の積雪観測および雪崩情報発信は、バックカントリーを楽しんでいただくためには、不可欠なことと思われる。2008〜2009年冬シーズンは、観測、そして八幡平茶臼岳周辺、中倉山、源太ヶ岳周辺の雪崩情報を、(一部)発信した。

次のシーズンからは、発信体制を検討し、ヴァージョンアップしていきたい。また、パウダーのメッカ、八幡平スキー場が閉鎖となり、別な局面を迎えた。スキー場が閉鎖しても入山者はかなりの人数がある。旧スキー場が現在、放置されている状態で、ゲレンデ部分は無樹林で急斜面の一部は雪崩の頻発地帯となってしまった。そのような状況も踏まえ、八幡平エリアの事故防止に取り組みたい。また、雪崩に関する正しい知識の普及、安全のためのスキルアップ講習会、事故を最小限に食い止めるための講習会をタイムリーに持続的に企画していきたい。


 2007年03月  八幡平スキー場で“雪崩事故防止セミナー”開催(北海道雪崩事故防止研究会、樋口和生講師他)
 2007年04月  八幡平スキー場でスキーツアーガイドセミナー後援(主催:東北山岳ガイド協会)
 2008年01月  北東北エリア雪崩事故防止研究会発足
 2008年01月  八幡平スキー場周辺で“雪崩事故防止セミナー開催(日本山岳ガイド協会の講師他)
 2008年04月  八幡平市遭対と懇談会(八幡平市役所)
 2008年04月  日本雪氷学会東北支部講演会参加(岩手大学工学部)
 2009年11月  雪崩フォーラム開催(八幡平市遭対隊長、高橋時夫講師、ニセコ雪崩調査所所長、新谷暁生講師)
 八幡平市県民の森、森の学習館
 2009年01月  バックカントリーレスキュー講習会後援(東北山岳ガイド協会講師)八幡平スキー場周辺、
 八幡平リゾートホテル
 2009年02月〜  中倉山、源太ヶ岳山域情報発信開始
 2010年01月  下倉スキー場周辺でバックカントリーレスキュー講習会後援(主催:東北山岳ガイド協会)
 2010年02月  日本雪崩ネットワーク主催セイフティキャンプ(八幡平)参加(事務局平山)
 2010年02月  海上自衛隊八戸航空隊雪中救難隊訓練(奥中山)雪崩部門講師担当(事務局平山)
 2010年11月  『八幡平エリア雪崩情報』を新たに追加作成(FCブログ)情報発信開始
 2011年01月  八幡平スキー場周辺でBCスキー(スノーボード)雪崩レスキューセミナー開催(国際ガイド山岸講師
 2011年02月  日本雪氷学会東北支部積雪観測講習会(西和賀町)参加(事務局平山)
 2011年02月  海上自衛隊八戸航空隊雪中救難隊訓練(奥中山)雪崩部門講師担当(事務局平山)
 2011年05月  日本雪氷学会東北支部研究発表会(岩手大学農学部)参加(事務局平山)
  2011年10月   岩手山西側大規模雪崩第1回調査サポート(雪氷防災センター新庄支所、森林総研十日町)
  2012年01月   積雪観測講習会(日本雪氷学会東北支部他主催)八幡平市松尾に於いて共催
  2012年02月   北東北エリア雪崩防止セミナー2012『雪崩に埋らないための行動をチェックする』開催(盛岡市)
  2012年02月   海上自衛隊八戸航空隊雪中救難隊(奥中山)雪崩部門講師担当(事務局平山)
 2012年07月  岩手山西側大規模雪崩第2回調査サポート(雪氷防災センター新庄支所、森林総研十日町)
 2012年10月  岩手山西側大規模雪崩第3回調査サポート(森林総研十日町)
 2013年01月  八幡平茶臼エリアでバックカントリーツアー講習会開催(第1回)
 2013年02月  八幡平茶臼エリアでバックカントリーツアー講習会開催(第2回)
 2013年02月  海上自衛隊八戸航空隊雪中救難隊訓練(奥中山)雪崩部門講師担当(事務局平山)
 2013年03月  ASTレベルT講習受講(宮城蔵王すみかわスノーパーク)(事務局平山、工藤)
 2013年03月  岩手山西側大規模雪崩第4回調査サポート(森林総研十日町)
 2013年03月  八幡平茶臼エリア雪崩講習会開催(平山、工藤)
 2014年02月  海上自衛隊八戸航空隊雪中救難隊訓練(奥中山)雪崩部門講師担当(事務局平山)
 2014年03月  『絶景百名山 八幡平・冬』(BSフジ)撮影サポート(事務局平山)
  2014年05月   論文(2010〜11年冬期の岩手山大規模雪崩)が『雪氷』Vol.76,No.3 May 2014に掲載
 2014年05月   雪氷学会東北支部大会(山形市テルサ)参加(事務局平山)
  2014年09月   雪氷学会研究発表大会(八戸工業大学)参加(事務局平山)
  2015年01月   『雪崩事故防止フォーラム』開催(滝沢市)
  2015年02月   ASTレベルT講習開催(藤村知明講師)(八幡平市)
  2015年02月   海上自衛隊八戸航空隊雪中救難隊訓練(奥中山)雪崩部門講師担当(事務局平山)
  2015年02月   雪氷防災センター(新庄)雪崩調査サポート(八幡平)(平山、工藤)
  2015年05月   雪氷学会東北支部大会(郡山:日本大学工学部)参加(事務局平山)
  2015年11月   日本雪崩ネットワーク・アバランチナイト(盛岡市)参加(平山、工藤)
  2015年11月   雪氷防災センター(新庄)実験場見学(澤田、平山、工藤、他1)
  2016年01月   JAN雪崩業務従事者レベル1取得(工藤:ニセコ、平山:白馬)
  2016年02月   東北電力(岩手管内)雪崩講習会(網張)講師(平山、所)
  2016年03月   会場自衛隊八戸航空隊雪中救難隊訓練(奥中山)雪崩部門講師担当(平山)
   
   
   
   
     




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